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エピソードF-1.03

 二人が片付け始めて1時間。屋外に2台の軍用車が止まる音に、二人は身震いした。
恐れていた人物が、イクス・クロノが到着してしまったのだ。
二人は互いの顔を見やり、大きく頷いた。
ファイディが時間を稼ぎ、陽蘭が残りの掃除をすることを確認しあった瞬間だった。
時間を稼がねば。ファイディの頭はそのことだけで一杯になっていた。
そのためか妹の成長した姿は彼の眼中には入ってこなかった。
イクス 「ファ・・・」
ダッ!とその場を駆け出すイクス。
4年ぶりに見る兄の姿は、鮮明に持っていた過去の姿を打ち消していた。
イクス 「ファイディ!!」
大きく飛び上がり、イクスはファイディ・クロノに飛びついた。
ファイディはそんな彼女をやさしく、だが思った以上の衝撃によろけながらも抱きとめる。
ファイディ 「うわっとと…。大きくなったなぁ、イクス。」
イクスを受け止め切れなかったのか、ファイディはその場にしりもちをついてしまった。
それでも、妹が尋ねてきてくれた事は嬉しいらしく、その顔はほころんでいた。
イクス 「あったりまえだよ~。もう4年も会ってないんだから………。」
イクスの甘えるような眼差しが、ファイディの心に突き刺さる。
今までほっぽいたまま、何をしていたのだと。
ヨハネ 「これこれ、イクス。ファイディをそんな眼で見ちゃいかんよ。でなファイディや、わしゃぁ少々疲れたでな。少し座らせてもらえんかの?」
ヨハネは自身の腰を軽く叩き、2日間強行のドライビングの疲れを訴えて見せた。
イクス 「そだね。家の中、案内してよ。」
イクスは兄の胸の上から立ち上がり、立とうとするファイディに手を差し伸べた。
ファイディ 「あ、いや。え~~~~と……。そうだ。みんな牛、見たくないか?」
歯切れ悪く、唐突にファイディがそう切り出したため、その場のみなが訝しがった。
 何故、家に入れたくはないのかと。
   がっしゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!!ドカドカドカ!!!!!
陽蘭 「うぎゃーーーーー!!」
突然、家の中から食器や家具がぶち撒けられる音と、ファイディの同居人・陽蘭の悲鳴が轟いた。
 勿論、全員がその理由に納得がいった。
家の中がまだ片付いていないうちにイクス達が到着し、片づけが済むまでの時間稼ぎにファイディがみなを出迎えたというわけだった、はず。
見事に陽蘭がその状況を最悪な方向へとひっくり返してくれたのだった。
 家の中からは、どうしたらそんなに出るの?と聞きたくなるような埃と煙がもうもうと立ち上がった。
ファイディ 「…もう。あの家事ベタめ……。」
涙をちょちょ切らせ、肩を大きく落としたファイディが足取り重く我が家へと入っていった。
ヨハネ 「…手伝うかのぉ…。今夜の寝床がテントにならんうちに………。」
ファイディの後を、ヨハネが呆れ顔で続いていた。
先ほどの惨状である。
家の中がどのような現状かは容易に想像がついていた。
全員が疲れた身体に鞭を打ち、我がねぐら作りのために現場へと急行した。
そしてその呆れた惨状に目を白黒させる事となる…………。
エピソードF-1.03、了。

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エピソードF-1.02

陽蘭 「あら、郵便配達の日だったのね~。今日はどこから仕官を求められるかしら?」
陽蘭は悪戯っぽくそう言った。
前大戦を生き抜き、尚且つ部隊『蒼』に属していたファイディのネームバリューは凄まじい物があった。
彼がその国に仕官したとなれば、それこそ国家安泰どころか世界制覇も夢ではなかった。
ファイディ 「…前大戦のままのポテンシャルをこの身体が有していれば、だなぁ。もう大分なまってるんだけどなぁ。」
ファイディは郵便屋から郵便物を受け取ると、代金と、自家製のチーズを渡した。
郵便屋からは、代金をもらうよりチーズをもらえるほうが嬉しいと言われたため、そうするようになったのだった。
ファイディの作るチーズは、世界の王族すら喉から手が出るほどの価値が生まれているためだった。
ファイディ 「今日も大漁だね。ラ・ピュタも、オリンポスもあるや。この2国ならきっと陽蘭も受け入れてくれるぜ?」
ファイディは宛先だけを見て各国からの手紙----国家代表の直筆であろう。----をゴミ箱に放り込んでいった。
陽蘭 「いやよ。私、あの人の下だから国って言う枠の中に納まったんだから。」
両頬を膨らませ、陽蘭は見た目から拒否の姿勢を見せた。
そんな彼女の姿に苦笑し、ファイディはどんどん手紙をゴミ箱に捨てていった。
ふと、そんな彼の動きが止まった。
陽蘭 「…?どうしたの?」
ファイディ 「…これ。」
ファイディは一通の葉書を陽蘭に渡した。
そこには、イクス・クロノの名前が書き込まれていた。
ファイディの、不意に出来た妹からの手紙だったのだ。
陽蘭 「や~ん!あのオチビちゃんが葉書を送ってくれたんだ~!!」
陽蘭はファイディから葉書を受け取り、裏返し文面に眼を通し始めた。
ファイディは不必要な郵便物をゴミ箱につめ、陽蘭はイクスからの葉書の隅から隅までを熟読した。。
ファイディ 「なあなあ、イクス何だって?」
少々興奮気味のファイディが、葉書を食入る様に見つめる陽蘭に聞いた。
陽蘭 「来るって。」
ファイディ 「来る。」
陽蘭 「うん。今日、ここに遊びに来るって。」
ファイディ 「そうか~。ってことは会うのは3年半ぶりくらいかな?大きくなったろうな。」
ファイディはそう言いつつ、我が家の中を見回した。
もう、見事な散乱状態である。
実は二人とも、片付けることがこれでもかと苦手だったのだ。
陽蘭 「ええ。掃除の大好きな子で。」
陽蘭は遠い眼で昔を思い出していた。
ファイディの妹とは戦後、数日間の面識だったが、それはもうこれでもかと掃除しまくっていたのを良く覚えていた。このままでは確実に、後片付けの出来ない兄と姉として、雷が落ちるのは間違いないであろう。
陽蘭 「…さてと。」
ファイディ 「急いで片付けよう!!」
二人は慌てて我が家の片づけを始めた。
勿論、それが付け焼刃と解かりつつ………。
エピソードF-1.02、了。

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エピソードF-1.01

 遠くに、黒い雲の塊があるのを彼は目聡く見つけていた。
ファイディ 「…顔占い、また当たったなぁ……。」
ファイディは大きくため息をつくと、白いシャツを引っつかみ、1階へと続く階段に足をかけた。
その横で、同居人の陽蘭は寝巻きを脱ぎ箪笥から服を取り出している最中だった。
ファイディ 「…聞かないのか?陽蘭。」
陽蘭 「なにを~?あぁ。なんの夢見たの、とか?」
陽蘭は太ももまである靴下を履いた。
陽蘭 「…忘れられないんでしょう?あの人たちを。だからここに家を建てて、待ち続けているの。違う?」
そして木靴を履く。
陽蘭 「私だって、死んだと思ってないもの。だからここで待っているの。私は月の女神を。貴方は蒼き勇者をね。」
鏡に向かい、髪を結う。彼女の朝一番に行う全てだ。
これで陽蘭は着替えを終了し、その日一日を始められる。
ファイディへ鏡越しに、寂しそうに微笑む陽蘭。
陽蘭 「夢、4年前の両雄相打つ瞬間の光景でしょ?あんなの、誰も忘れられないわ。」
陽蘭はベッドから立ち上がり、階段のそばで落ち込むファイディのそばへと近づいていった。
そして、勢いそのまま彼の頬にキスをし、ファイディより先に階下へと下りていった。
陽蘭 「ほら!朝からしゃんとなさい、しゃんと!!牛のハナコがお腹空かして待ってるわよ~!!」
二人は生計を立てるため、乳牛のハナコと闘牛のタロー、その2頭の仔チビとミニを飼っていた。
ハナコの乳は上質のチーズになり、タローは連戦連勝の横綱牛だった。
陽蘭 「ファイディー!コーヒーに入れるミルクがないわーーー!!」
ファイディ 「へーいへい。今日もハナコにはがんばっていい乳出してもらうとしますか。」
朝は朝。
いつもどおりの朝は今日もやってきたのだ。
二人は4年前は敵同士だったはずだった。
何の因果かはわからないがこうやって二人一緒に暮らしている。
もう帰ってきやしないであろう、大好きだった友人二人を待ちながら。
 ファイディの朝は早い。
まずは牛一家の朝食を用意するため、日が昇り始める前に起きる。
牛たちには元気よく暮らしてもらうために市販の飼料は使わず、自分で育てた麦・とうもろこし・さつま芋などを少量。後足りない分は家の前にあふれる牧草を食べさせていた。
牛たちが朝ごはんを反芻する音を聞きながら、ファイディはハナコの乳を少し分けてもらい、それを陽蘭のいる台所に預け、地下へと下りる。
地下には生計を支える良質のチーズが並べられており、それら全ての熟成具合を品定めするのだ。
時に必要ないカビがつかないよう丁寧に磨き上げる日もある。
それが終わると外に出て、牧草を刈り上げてゆく。牛たちの冬の食料を今から蓄えてゆくためだ。
そして畑に水をやり、雑草を引っこ抜いて朝の仕事は終わりである。
陽蘭 「お疲れ様。はい、朝ごはん。」
ファイディがテラスに腰掛けるのを待ってましたと言わんばかりに、陽蘭が朝食をテーブルに並べ始めた。
ファイディ 「お、今日はきれいに焼けたなぁ。」
ファイディはこんがりと焼きあがったトーストを手に取った。
ファイディ 「…見事に片面だけ……。」
トーストの裏面はどうしてか炭と化していた。
陽蘭 「…4年かけて、やっと片面よ…。」
がっくりと肩を落とし、陽蘭はナイフをファイディに差し出す。
ファイディは受け取ったナイフで炭を削ぎ落とし、今まで見たことのないジャム(らしき)物がたっぷり塗られたトーストを口一杯にほおばった。
ファイディ 「グェフッッ!!」
突然、ファイディは毒にあたったかのように、ほおばったトーストを吹き出した。
陽蘭 「ど、どうしたの!?」
陽蘭は噎せるファイディの背中を摩ってやった。
ファイディ 「……な、何を塗った…。」
ファイディはトーストを指差した。
陽蘭 「何って、イカの塩辛。昨日、買って来てくれたじゃない。」
確かに先達てファイディは陽蘭に頼まれ、イカの塩辛(赤造り)を何とか手に入れていた。
ファイディ 「…塩辛はお酒の御供に……。」
ファイディの中で、イカの塩辛はジャム代わりは勤まらなかった様だった。
陽蘭 「こんなに美味しいのに。」
陽蘭は何事もないようにトーストをほおばり、ご馳走様と両掌を合わせた。
大量の水で口を濯ぎ、ようやく立ち直ったファイディの耳に、聞きなれた単車の音が聞こえてきた。
ファイディ 「そっか。もうそんな日かぁ。」
ファイディは立ち上がり、眼を凝らし遠くからやってくる赤い単車の姿を捉えた。
陽蘭はカレンダーに眼をやり、今日の日付に大きく赤丸が書かれている事に気がついた。
陽蘭 「あら、郵便配達の日だったのね~。今日はどこから仕官を求められるかしら?」
陽蘭は悪戯っぽくそう言った。
前大戦を生き抜き、尚且つ部隊『蒼』に属していたファイディのネームバリューは凄まじい物があった。
彼がその国に仕官したとなれば、それこそ国家安泰どころか世界制覇も夢ではなかった。
エピソードF-1.01、了。

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エピソードF-1.00

 全てを押しつぶす翡翠の大光を、少年は凝視した。
 ほんの一瞬の悪夢のほうがよかった。
太古から続く「北の大国」と「南の諸国」による抗争は拡大の一途をたどり、果てには世界を巻き込む一大戦争へと発展していった。
全面対決が避けられなくなった両陣営は、北の大地を舞台に衝突を繰り返し始める。
 その中を彼らは『蒼』の一文字を旗に標し、戦場を遊撃していた。
あらゆる難敵を打ち砕き、常勝を約束された部隊、『蒼』。
 その最後はあっけないものだった。
敵方の総大将「月の女神」と、蒼の部隊総長「蒼き勇者」の相打ち。
そして世界は翡翠の光に包まれ----ありとあらゆる文明を押し潰されながらも----新たな時代の幕開けを祝った。
 世界が歓喜する中、まだ少年だった彼は大事な友人を二人亡くし、慟哭していた。
蒼き勇者の背を守れる者。月の女神の愛を知る者。
 彼の名は、ファイディ・クロノ。
人であり、獣である。
  ※※※
 ……ディ…。」
ファイディは誰かに揺り動かされている事を、夢現の間で感じ取っていた。
だが、前日に近隣の村まで歩いていった疲れが出ているのか、中々現に戻ることが出来ないでいた。
陽蘭 「ファイディ!!」
彼は同居人に自身の名を呼ばれている事にようやく気がついた。
ファイディ 「…んん?陽蘭、どうかしたか?」
寝ぼけ眼のまま、ファイディは自分の顔を覗き込む同居人の頬に手を添えた。
陽蘭 「ずっとうなされていたから…。」
ファイディ 「そうか…。昨日のせいだな、そりゃぁ…。」
陽蘭 「…なぁに?」
ファイディ 「昨日、広場で『自分は蒼の部隊の生き残りだ』っていってる奴をノした。おかげで今日の夢見心地は最悪だ。」
彼は先日、食料品などを買出しに村のマーケットに顔を出した際、広場の中央で大法螺を吹き村人たちから金を巻き上げていた一味と大乱闘を起こし、勝利していたのだ。
結果、4年前の忘れられないあの日を夢で見てしまったというわけだった。
のっそりと上体をベッドから起こし、ファイディは顔を両手で洗う仕草をした。
陽蘭 「あら、今日は雨かしら?」
ファイディ 「ッチ、バカ。オレは猫か。」
ファイディが両手で顔を洗う仕草をすると必ず雨が降るな。そう友人に言われたのを彼はふと思い出した。
彼は立ち上がり、手近な窓から外を仰ぎ見た。
大草原に立つ一軒家。
その窓から見える、地平線の先まで牧草地のここが、4年前までは大砂漠地帯だったとは誰も信じはしないだろう。
だが事実、ここは4年前の終戦直前まで砂漠であった。
「月の女神」と、「蒼き勇者」の相打ちの際に発生した翡翠色の光が世界の姿を一変させた。
その確固たる証拠が、青年の眼のまえに広がっていた。
 遠くに、黒い雲の塊があるのを彼は目聡く見つけていた。
ファイディ 「…顔占い、また当たったなぁ……。」
ファイディは大きくため息をつくと、白いシャツを引っつかみ、1階へと続く階段に足をかけた。
エピソードF-1.00、了。

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エピソードA-1.03

 そんなこんなで丸二日間という道程を乗り越え、イクスたちは目的地のファイディ邸へとたどり着くことが出来た。
まだ眠りこけているレイクとユーリアを車内に残し、みながその牧場内に下り立った。
牛はほんの一家族分しかいない用だったが、その広大な酪農風景は都会にいる時間の長いラムダにも、ミューにも、ニューにも、勿論イクスにもカルチャーショックを与えていた。
牛は穏やかな表情で彼女達を出迎えた。
ニュー「この子がファイディの言ってた闘牛のタローちゃんかなぁ?」
ミュー「あまり大きくありませんわね。」
イクス「牛舎は危ないから近づくなって前の手紙に書いてあったけど・・・。」
イクスは牛舎へとフラフラ歩いてゆくラムダを呼び止めた。
ヨハネは牛舎をそっと覗きこみ、子牛が2頭、スヤスヤと寝息を立てていることに気が付いた。
ヨハネ「ちょうど出産の時期だったんじゃろう。母牛が興奮せんうちに家主の元に行こうとするかの。」
ヨハネは母屋を指差した。
と、イクスは母屋から出てきた長身の男性に気が付いた。
イクス「ファ・・・」
ダッ!とその場を駆け出すイクス。
4年ぶりに見る兄の姿は、鮮明に持っていた過去の姿を打ち消していた。
イクス「ファイディ!!」
大きく飛び上がり、イクスはファイディ・クロノに飛びついた。
ファイディはそんな彼女をやさしく、だが思った以上の衝撃によろけながらも抱きとめる。
ファイディ「うわっとと…。大きくなったなぁ、イクス。」
しっかりと抱きとめたファイディ。だが、やはり4年の成長がそうさせたのか、イクスを受け止め切れなかった彼はその場にしりもちをついてしまった。
それでも、妹が尋ねてきてくれた事は嬉しいらしく、その顔はほころんでいた。
イクス「あったりまえだよ~。もう4年も会ってないんだから………。」
イクスの甘えるような眼差しが、ファイディの心に突き刺さる。
今までほっぽいたまま、何をしていたのだと。
ヨハネ「これこれ、イクス。ファイディをそんな眼で見ちゃいかんよ。でなファイディや、わしゃぁ少々疲れたでな。少し座らせてもらえんかの?」
ヨハネは自身の腰を軽く叩き、2日間強行のドライビングの疲れを訴えて見せた。
イクス「そだね。家の中、案内してよ。」
イクスは兄の胸の上から立ち上がり、立とうとするファイディに手を差し伸べた。
ファイディ「あ、いや。え~~~~と……。そうだ。みんな牛、見たくないか?」
歯切れ悪く、唐突にファイディがそう切り出したため、その場のみなが訝しがった。
 何故、家に入れたくはないのかと。
   がっしゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!!ドカドカドカ!!!!!
陽蘭「うぎゃーーーーー!!」
突然、家の中から食器や家具がぶち撒けられる音と、ファイディの同居人・陽蘭の悲鳴が轟いた。
 勿論、全員がその理由に納得がいった。
家の中がまだ片付いていないうちにイクス達が到着し、片づけが済むまでの時間稼ぎにファイディがみなを出迎えたというわけだった、はず。
見事に陽蘭がその状況を最悪な方向へとひっくり返してくれたのだった。
 家の中からは、どうしたらそんなに出るの?と聞きたくなるような埃と煙がもうもうと立ち上がった。
ファイディ「…もう。あの家事ベタめ……。」
涙をちょちょ切らせ、肩を大きく落としたファイディが足取り重く我が家へと入っていった。
ヨハネ「…手伝うかのぉ…。今夜の寝床がテントにならんうちに………。」
ファイディの後を、ヨハネが呆れ顔で続いていた。
先ほどの惨状である。
家の中がどのような現状かは容易に想像がついていた。
全員が疲れた身体に鞭を打ち、我がねぐら作りのために現場へと急行した。
そしてその呆れた惨状に目を白黒させる事となる…………。
エピソードA-1.03、了。

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エピソードA-1.02

 イクスはユーリアから取り上げたゲーム機を片付けている時、ふとレイクの寝息に気がついた。
ふて寝が本当に寝てしまったのかとバックミラー越しに後ろの座席に目をやった。
ユーリア 「…っとに、ホントお子様なんだから…。」
そこには優しくレイクに毛布をかけるユーリアの優しい眼差しが写っていた。
いつも顔を合わす度にけんかを始める2人だったが、自分たちの知らないこんな面もあったんだなとイクスは胸を撫で下ろしていた。きっと、ヨハネ老人も同じ思いであっただろう。
 イクスはそっとウインドゥを少しだけすかし、車内の空気の入れ替えを図った。
夏とはいえ、海抜の高いこの草原の風は少しだけ冷たく、清々しいものだった。
その風に乗り、2号車から陽気な歌声×3がかすかに響いてきた。
カラオケ大好きの3人が一緒に、狭い空間に収まっているのだ。宴会が始まっているのだろう。
 運転手のラムダがお酒を飲み、事故を起こさないかどうかだけがイクスにとっての悩みの種となった。
この騒音で寝た子を起こされる訳にはいかないかと思ったのか、イクスはすぐにウインドゥを閉めにかかった。
ヨハネ 「ハハハ…。やはりあの子達をひとつにしてよかったのぅ。」
暗にヨハネはラムダたちを指してそう言った。
イクス 「ホントに。…でも、みんなが旅行を楽しんでくれてよかった。」
 レイクが寝入ってから数分と立たずに、ユーリアまでもが眠ってしまい、車の中は静かな時間が過ぎていた。
車は1時間ほど走ったか。
小休止と道の確認のため、車は一時停車をしたが、その間も二人が起こされる事はなかった。
イクス 「方角はこの方向でいいみたい。この先に大きな岩があるのが目印なんだって。」
イクスは町で仕入れておいた情報を元に、ニューに広域探索を依頼していた。
いつも猫みたいに丸まっているニューではあったが、探索のスペシャリストとしてその手の世界では名が通っていた。
ニュー 「方角はちょっと微調整だね~。方位+3°ってとこかな~?」
ニューはイクスに教えてもらった大岩を目印に、探索を行い、目的地を割り出して見せた。
ニュー 「時間はちょっち短縮。あと5時間23分ってところなの~。」
ニューはお手製の光学双眼鏡をイクスに手渡し、ずっと先を指差して見せた。
イクスは言われるままに双眼鏡を覗き込み、目的の家屋らしきものを発見した。
ミュー 「あと5時間ですか…。イクスさん、何か暇つぶしになるものはありませんか?カラオケも何周も歌ってしまいましたし…。」
イクス 「…え…。出発からずっと歌ってたの?」
ミュー 「ええ…。」
ミューは頬を赤らめ、手の指全てを立てて見せた。
10回以上は同じ曲を歌ったと、その指は物語っていた………。
エピソードA-1.02、了。

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エピソードA-1.01

 人里から2週間の土地へと家族で旅行へ。
子供が二人いるのにそんなことは絶対に無理だって?確かに絶対だ。僕は別にいいんだけど、歩くのが大っ嫌いなユーリアには特にだ。
 ではどうするか?
そこは軍関係者一家。歩かない人間の尻を引っぱたくよりも簡単な方法をとる事にした。
“自動車”を使用したのだ。
どんな悪路も走ることが出来る、軍最新型の軍用車両を借りてきてしまったのだった。
レイク 「すげ~…。ず~~~~~~~~~~~~~~~っとおんなじ景色だ……。」
僕はその広大な草原に魅入っていた。
4年前まではここ一帯は砂漠だったそうだが、終戦直後に突然緑化が進み、現在のこの姿に落ち着いたそうだ。
その大草原を、2台の軍用車が軽快に疾走していた。
車ならば人の足で2週間のところを2日間で行けると、じーちゃんが試算し、そして軍から借りてきてしまったのだった。(しかも2台も。ファイディ・クロノの家に行くと言ったら即貸してくれたらしい。)
ヨハネ 「ふむ、これだけ壮大だと運転も楽しいのぉ。」
じーちゃんは上機嫌でハンドルを握り、アクセルを踏む足に力をこめた。
 前を行く1号車に僕、じーちゃん、イクスねーちゃん、ユーリアが。
後ろの2号車にラムダねーちゃん、ミューねーちゃん、ニューねーちゃんが分乗していた。
レイク 「すげ~…。」
僕はただただ、外に広がるっ大草原に魅入られていたのかもしれない。
どれだけ眺めていても飽きなかったのだ。
すぐ隣に座る姉(妹?)はもう飽きてしまったらしいが・・・。
ユーリア 「あんたそれ以外のボキャブラリーないわけ?」
呆れ顔のユーリアが、携帯ゲーム機片手に鼻を鳴らして見せた。
僕は確かにそれ以外にいい言葉が見つからず、黙ってしまった。
レイク 「い、いいじゃないか。心の奥から出てくる一番の感想なんだから!」
僕はそういって、ふて寝をする事に決めた。
ヨハネ 「イクスや、ユーリアからゲーム機取り上げなさい。車の中でそんなもんやっとると車酔いするでな。」
イクス 「は~い。」
と、突然助手席に座っていたイクスねーちゃんが手を伸ばし、ユーリアからゲーム機を取り上げた。
イクス 「ず~っとゲームばかりして。たまには外の景色見なさい!」
ユーリア 「え~!何にもないのを見てたってつまんない~!!」
 僕にはいつも辛辣な事言うのに、イクスねーちゃんには何でこんなにデレデレとするんだ?
なんてふて腐れているとついウトウトとしてきて…………。
誰かが僕に毛布をかけてくれたのが記憶の最後に、僕は深く深く眠りについてしまった。
エピソードA-1.01、了。

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プロローグA-1.00

 少女はワクワクしながら葉書と封書を真っ赤で四角い箱に投函した。
高校2年生の夏。
普通の高校生ならば、普通に暮らせる長期休暇。
だが、彼女にはその普通が誰よりも羨ましかった。
 彼女の名はイクス・クロノ。
過去に風の都と呼ばれた『ラ・ピュタ』という国に暮らす16歳の少女だ。
彼女は生まれたその日から戦場に暮らし、“大戦”が終わったその後も戦後処理に世界中を奔走していた。そう、彼女は高校に在学しながら軍事機関にその身を置き続けていたのだ。
イクス 「よし、あとはお買い物だけ!何買っていこっかな~?」
 一通は軍へ。
先日(といってももう半年以上前の話だが。)、ある手柄からひとつだけ、願いを叶えると軍上層部と約束を取り付けたのだ。
彼女にとって一番の願い。それは家族全員での長期旅行だった。
軍上層部はその願いを快諾。他に軍に身を置く家族全員の分をも認め、彼女たちに休暇を認めたのだ。
軍に送った封書は形だけの休暇願いだったというわけだ。
 では、もう一通の葉書は?
イクス 「お兄ちゃんには何買ってこぅ~。あ、『イクス、わざわざここまで尋ねてきてくれた君が一番のお土産さ。』な~んて。うふふ!」
彼女は上機嫌で商店街を闊歩していった。
両の手には、長期旅行のための缶詰、レトルト食品、水、着替え、下着.......etc。
大量の買い物のレジ袋が提げられていた。
大量の買い物を両手に、自分の世界に浸っている彼女は一種、異様であったろう。
もう一通の葉書。これは、彼女の兄である人物の家に宛てて送られていた。
 彼女と兄は、もう4年以上も会っていなかった。
彼女の兄は4年前のあの日から、歴史の表舞台に立つことなく隠匿の生活を送っていたのだった。
その生活拠点は人里から2週間という、その手の人たちからは好立地と噂される所に住んでいた。
そこに向かうために長期休暇を願いで、そして兄に宛てて葉書を送ったのだった。
イクス 「きっと、家族が2人も増えたことに驚くよね。なんて説明すれば良いかな。あの人たちの子供です!って言っても信じてはくれないよね~…。」
 西地区B-72。我が家の前で彼女は思い悩む。
先日の手柄と同時に、彼女には9歳の弟と妹が出来てしまったのだ。その生まれが特殊であるため、兄になんと説明してよいのか判らないでいたのだ。
レイク 「あれ?ねーちゃん、今日はもう仕事終わり?」
イクス 「うん?あら、レイクの方こそもう学校終わったの?」
彼女が思い悩み、玄関先に立っていたところに、黒いランドセルを背負った弟が帰宅した。
レイク 「明日から夏休みだから半日。」
突然出来た弟、レイクは彼女の荷物を半分持ち、玄関のドアのノブをひねった。
イクス 「あ、そっか。小学校は明日から夏休みなんだったわね。…ユーリアは?」
リビングのソファに荷物を積み上げ、レイクと一緒に帰宅しなかった妹を心配した。
レイク 「じーちゃんただいま。おやつは~?」
レイクは地下室に向かって大声で叫びつつ、冷蔵庫内を物色する。
イクス 「レイク!僕の問いの答えは!?」
レイク 「…うぁ、怒んないでよ。友達とカフェ寄ってから帰るって。」
突然怒鳴られたレイクは牛乳片手に、妹・ユーリアの所在を明かした。
イクス 「…ッチ、お小遣い制にしようかしら。」
レイク 「意味ないだろうね。ねーちゃんたちからお金を捻り出すのがユーリアの特技みたいなもんだし。」
二人は同時に大きなため息をしていた。
ユーリアの趣味、「食べ歩き」は我が家の家計をかなり圧迫していると、わかっている二人のみがわかる悩みだった。
ヨハネ 「どうした、二人とも大きくため息ついて。」
一家の長、ヨハネ・アインズバーグがオイルまみれでようやく地下室から這い出てきた。
その足取りは軽く見えるが、とうに60の齢を軽く超える年齢を刻んでいた。
イクス 「何でも…。」
レイク 「…な~いよ。」
ヨハネ 「ほっほっほ、まあニューお手製のクッキーでもつまみながら3時のおやつとしようじゃないか。のぉニューや。」
ヨハネはリビングの隅に置かれたコタツをポンポン、と2度ほどノックした。
ニュー 「うに~?クッキーなら食器棚の2段目なの~。」
と、コタツからひょっこりとニューが頭を出して見せた。寒がりの彼女にとって真夏とはいえ、クーラーがキンキンに効いた家の中は冬と代わりがないらしいのだ。
ラムダ 「ふわ~…おっはよ~…。」
一家の長女、ラムダが二階からゆっくりと下着一丁で降りて来た。
夜のバーを出入りする彼女にとって、今起きてくることは珍しくはないことだった。
ミュー 「ただいま帰りました。イクスさん、わたくしの分の休暇願い、出しました?」
一家で一番の秀才肌、ミューが夜勤明けで帰宅した。
ラムダ/ニュー 「休暇願い?」
それまで寝ぼけていたニューと、レイクが注いだ牛乳を飲み干したラムダの目がパッチリと覚めた。
イクス 「うん、みんなの分の休暇届、出したよ。あ!でさ、みんなに聞いて欲しいことがあるんだけど。」
イクスは全員をリビング中央のテーブルそばに呼び寄せた。
カランカラ~ン♪
小気味良く、玄関に取り付けられたカウベルが末娘の帰宅を伝えた。
ユーリア 「たっだいま~!!……あれ?一家が全員そろってる……。めっずらし~…。」
桃色のランドセルを担ぎ、一家の末娘ユーリアが帰宅した。
そしてはたと足を止める。
一家総出の出迎えがそこにはあったのだ。
ユーリア 「…なに?何かあったかしら…?」
ユーリアは上機嫌のイクスに気付くと、ふと気がついた。
ラムダとニューにお金を借りたことが、イクスにばれたのだと。
イクス 「ユーリア、お帰り。ちょうど良い時に帰ってきたね。話したいことがあるんだけど。」
とイクスがユーリアを手招きした。
勿論、ユーリアには彼女の表情がわなを張って待ち構えているように見えたのは言うまでもないだろう。
 ユーリアは踵を返し、さっさとその場を逃げ出そうとした。
が。すぐそばにいたミューが彼女を抱きかかえ、リビングのソファに座らせてしまった。
イクス 「あれ?ユーリアどうかした?すごい汗…。」
イクスはやさしく、冷や汗をかき続ける妹を気遣った。
ユーリアにはそれもまた、罠に思えてならなかったのだが。(彼女にとって)事態は好転する。
ヨハネ 「イクスや、話とは何だね。」
ヨハネのその一言が、イクスの目線をユーリアから引き剥がす事となった。
イクス 「ああ、その事?あのさ、長期休暇を使って、みんなで旅行に出ない?ほら、渡航許可証も全員分。」
イクスは大きな封筒から、ここ最近なかなか取れない渡航許可証を取り出して見せた。
---ここ『ラ・ピュタ』は近隣諸国との友好関係がうまくいき、商業目的で国外に出てゆく人間が増えていたため、ここ最近は逆に渡航許可の出し渋りを行っていたため、なかなか旅行目的の許可申請は通らないでいた。
そのため、この許可証は非常に貴重なものであった。---
ラムダ 「おお!!“仕事”以外で国外に出れるなんて私、初なんだけど!」
諜報機関に勤め、夜の世界を渡り歩くラムダが最初に喰い付いた。
勿論、軍部の諮問機関に勤めるミューも、研究部門に勤めるニューとヨハネも喰い付いた。
イクス 「今後の予定、聞かずに決めちゃったけど予定あった?」
イクスは研究機関の所長を勤め、一番忙しいであろうヨハネに聞いた。
ヨハネ 「かまやせんよ。予定なんて遅らせばええ。結局のところワシの研究は軍事目的だからな。」
レイク 「僕、サッカークラブに入るって、町内クラブの監督と約束しちゃったんだけど…。」
オズオズと、レイクはイクスに今後の予定を打ち明けた。
イクス 「うわ、ゴメ~ン!1ヶ月だけ我慢して!ね?家族全員で旅行なんてこれっきりになっちゃうと思うしさぁ。」
イクスは弟に手を合わせて頼み込んだ。
そんな事をしなくてもレイクが断ることの出来ない子である事は誰もがわかっていることだった。
 渋々だがイクスの「これっきり」という言葉に負け、クラブの監督に家族旅行の件を伝えに行こうと、玄関のドアノブに手をかけた所……。
ミュー 「レイク、ついでですみませんがこのままでは医療キットが少々心もとないので購入してきてくれますか?」
と突然、レイクはイクスが買い込んできた買い物袋をしげしげと眺めていたミューに呼び止められてしまった。
ラムダ 「お。酒たんないじゃないのよ~。レイク、頼める?」
ミュー同様に、買い物袋を物色していたラムダが彼を引き止める。
ニュー 「あ。ツナ缶がワンセットだけしかない~!!レイク、あたしの分もお願い!」
レイクは慌てて姉たちに抗議しようと、玄関先からすっ飛んで引き返してきた。
レイク 「ちょ!待ってよ、僕はクラブ入会を1ヶ月伸ばしにいくだけ………!!」
ラムダ 「んじゃ、頼むワ。」
ニュー 「うに、おねがいぃ~。」
ミュー 「よろしく。」
レイクは姉達からそれぞれ、お買い物メモを手渡されてしまった。有無を言わさずに。
ヨハネ 「…主人公とは、そんなもんだて。」
ヨハネはレイクを優しく諭した。
それを聞き、我らが主人公レイクは大きく肩を落とし、買い物の準備を始めた。
女系のアインズバーグ家において、男性の地位向上は一生ないかもしれないと思いつつ…………。
レイク (待てよ…。お金も俺持ちか…?)
エピソードA-1.00、了。

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